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福岡地方裁判所 昭和58年(ワ)3097号 判決

原告 成田物産株式会社

右代表者代表取締役 滝井利信

右訴訟代理人弁護士 井上庸夫

坂本祐介

金子龍夫

佐藤至

被告 季乗祚

被告 三宝商事こと 季政敏こと 松岡政敏こと 季正秀

右両名訴訟代理人弁護士 大原圭次郎

古海輝雄

主文

一  被告季乗祚は原告に対し、別紙物件目録記載(一)及び(二)の土地について、福岡法務局昭和五五年二月二九日受付第八六九六号賃借権設定仮登記の各抹消登記手続をせよ。

二  原告の被告季乗祚に対するその余の請求及び被告季正秀に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告季乗祚の間においてはこれを二分しその一を被告季乗祚の、その余を原告の各負担とし、原告と被告季正秀の間ではすべて原告の負担とする。

理由

一  請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、抗弁について判断する。

1  抗弁1ないし4の事実は、本件建物建築当時の所有者が石田建設であつたことを除き当事者間に争いがない。

2  ところで、法定地上権は、土地及びその地上の建物の双方に同時に抵当権が設定され、土地又はその地上建物の一方のみが競売に付せられ、その結果土地及びその地上建物の所有者が別になつた場合にでも、当該建物のため成立すると解され(最高裁判所昭和三七年九月四日判決・最高裁判所民事判例集一六巻九号一八五四頁参照)、この理は、土地と共に抵当権の目的となつた建物が朽廃によらずして滅失し、その後右土地上に建物が再築された場合においても異なることはなく、この場合においても滅失した建物が存続したのと同一の法定地上権が成立すると解すべきである(大審院昭和一三年五月二五日判決・大審院民事判例集一七巻一一〇〇頁参照。なお、右建物の再築は必ずしも抵当権設定者自らがなすことを要せず、第三者が土地について何らかの使用権限を取得して再築した場合であつても足りると解される。)。

3  そうすると、右の当事者間に争いがない事実関係のもとでは(なお、≪証拠≫及び弁論の全趣旨によると、本件建物の建築時の所有者は、その登記簿上の所有名義人は遠藤利秋ではあるものの、石田建設でないかということがうかがわれ、仮に右所有者が遠藤利秋であつたとしても、同人は、石田建設の役員であつたことが認められるから、本件建物の建築につき石田建設の許諾を得、本件土地について何らかの使用権を有していたことが推認できる。)、本件建物のため本件土地につき法定地上権が成立するというべきである。

4  原告は、本件のように、土地及びその地上建物に共同抵当が設定されたような場合において、当該建物が滅失し、新建物が建築されたときにまで法定地上権の成立を認めると抵当権者に不測の損害を被らせることになり許されるべきでない旨主張する。

しかしながら、土地及びその地上建物の双方に同時に共同抵当が設定された場合においても、土地又はその地上建物の一方のみが競売に付され、その結果として法定地上権が成立することがあり得ることは、抵当権設定時において抵当権者に予見可能なのであるから、右の場合に法定地上権の成立することを認めたとしても法定地上権という制度の存在自体から予定されている以上の特別な不利益を抵当権者に科することにもならないし、既に抵当権設定時に法定地上権が成立することがあることが予見し得る限り、抵当権設定時に存在した建物が取り壊され、新建物が建築された場合であつても、抵当権設定当時の旧建物を標準とする限り、やはり、右のような特別の不利益を科することになるとも考えられない。原告の主張は、抵当権者の利益を重視する一方、法定地上権の趣旨、目的をあまりにも軽視するもので採用できない。

三  以上のとおり、被告季は本件土地に法定地上権を有することが認められ、被告正秀が被告季から本件建物を賃借していることは原告の自認するところであるから、原告の被告季に対する本件建物収去本件土地明渡しの請求及び被告季の本件土地の占有が不法占有であることを前提とする賃料相当損害金の請求並びに原告の被告正秀に対する請求は理由がないので、これらをいずれも棄却し、被告季において本件仮登記の原因事実について何らの主張立証もしないから原告の被告季に対する本件仮登記の抹消登記手続の請求は理由があるからこれを認容

(裁判官 水上敏)

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